入れ歯の金属アレルギー対応素材~安心して使える治療法の選択肢
入れ歯と金属アレルギーの関係性
入れ歯を使用する際に気になるのが金属アレルギーの問題です。歯科治療で使われる金属が体に与える影響については、私が大学院時代に力を注いできたテーマでもあります。
金属アレルギーとは、特定の金属に対して体が過剰に反応してしまう症状のことです。入れ歯に使われる金属から溶け出した金属イオンが体内に吸収されることで、さまざまな症状を引き起こすことがあります。
症状は人によって異なりますが、口内炎が頻繁にできたり、舌が荒れたりするケースや、口角炎、口唇炎などの口腔内の症状が現れることがあります。さらに、手足に発疹や水ぶくれができたり、頭痛やめまい、肩こりなどの全身症状が出ることもあるのです。
特に入れ歯による金属アレルギーは「全身に症状が出るタイプ」に該当します。口内の歯科材料が原因の場合、金属から溶け出した金属イオンが体内に吸収されることでアレルギー反応が起こるのです。
口内に入っている歯科用の金属は、唾液や飲食物の刺激に常にさらされている状態です。経年劣化した金属から金属イオンが溶け出して、少しずつ体内に蓄積されます。そのため、口内に歯科用の金属を入れて10年以上経ってから症状が出る場合も少なくありません。
入れ歯に使われる金属と金属アレルギーのリスク
入れ歯に使われる金属には、さまざまな種類があります。特に部分入れ歯のバネ部分(クラスプ)に使用される金属は、ニッケルクロム・コバルトクロム・金銀パラジウム合金が主流です。
これらの金属は硬く丈夫な素材であるにもかかわらず加工がしやすいため、入れ歯のバネや矯正治療のワイヤーなどに広く使用されています。しかし、これらはアレルギーを引き起こしやすい素材でもあるのです。
金属アレルギーを引き起こしやすい金属としては、ニッケル、コバルト、水銀、クロム、スズ、銅などが挙げられます。特にニッケルは金属アレルギーの原因として最も多いとされています。
保険適用の部分入れ歯では、クラスプ部分に金属を使用するのが一般的です。保険適用の部分入れ歯に使用される金属はアレルギーの症状が出やすい金属が使われているため、注意が必要です。
一方、すべての歯を失っている方に使用する「総入れ歯」は、金属を使用せずに製作することが可能です。保険適用のものであれば、金属を使用しないため金属アレルギーの心配はありません。
金属アレルギーの方や、金属アレルギーが心配な方は、入れ歯を作る前に、どのような金属が使われるのか、またはアレルギーに配慮した素材選択が可能かどうかを歯科医師に相談することが大切です。
金属アレルギーに対応した入れ歯の素材選択
金属アレルギーがある方でも、安心して使える入れ歯の選択肢はいくつかあります。最近では金属を使わない素材や、アレルギー反応の少ない素材を使った入れ歯が増えてきています。
まず、総入れ歯の場合は比較的シンプルです。保険適用の総入れ歯は、基本的にレジン(プラスチック)でできているため、金属アレルギーの心配はありません。
問題となるのは部分入れ歯です。通常、部分入れ歯には残っている歯に引っかけるためのクラスプ(バネ)が必要で、これが金属でできています。金属アレルギーの方には、以下のような選択肢があります。
ノンクラスプデンチャー(金属バネのない入れ歯)
ノンクラスプデンチャーは、金属製のバネを使用せず、樹脂素材で歯を支える入れ歯です。歯茎に近い色の樹脂素材を使用するため、見た目が自然で目立ちにくいという特徴があります。
金属を使用しないため、金属アレルギーの方でも安心して使用できます。また、装着時の違和感や痛みも軽減されるため、快適に使用できるのが特徴です。
ノンクラスプデンチャーは、薄くて柔軟な樹脂素材を使用しており、金属の留め具がないため、口の中にぴったりとフィットします。そのため、装着感が向上し、長時間使用しても痛みが少ないのが特徴です。
さらに、残存する健康な歯への負担を軽減する入れ歯として注目されています。従来の入れ歯では、金属製の留め具を健康な歯に引っかけて固定するため、歯に過度な負担がかかる可能性がありました。
しかし、ノンクラスプデンチャーは金属を使用せず、歯茎や歯に自然にフィットするデザインのため、健康な歯を傷つけずに安定させられます。このため、残存歯への負担を最小限に抑えながら快適に使用できるのが特徴です。
ただし、ノンクラスプデンチャーは保険適用外となるため、費用は10万円から30万円ほどかかります。
シリコン入れ歯(コンフォート・デンチャー)
シリコン入れ歯は、歯肉と接触する部分にシリコンを使用した入れ歯です。このシリコンは生体適合性が高く、アレルギー反応が少ない安全な材料で、柔軟性と吸着力を兼ね備えています。
これにより、入れ歯のズレや不快感が減少し、顎の動きに合わせて快適に適応します。また、食事時の痛みが軽減され、食べ物をより良く噛むことが可能です。
シリコン入れ歯も、歯に引っかけるバネ(クラスプ)を使わないため、金属アレルギーの心配がなく、審美性も高いのが特徴です。
ただし、シリコン入れ歯も保険適用外となり、費用は部分入れ歯の場合で約11万円から60万円、総入れ歯の場合で約40万円から60万円ほどかかります。
チタン製の入れ歯
チタンは金属ではありますが、生体親和性が高く、金属アレルギーがほとんど起こらない素材として知られています。チタン製の入れ歯は、軽量で強度があり、熱伝導性も良好です。
金属アレルギーの方でも比較的安心して使用できる選択肢ですが、完全にアレルギーがないとは言い切れないため、事前にパッチテストなどで確認することをお勧めします。
チタン製の入れ歯も保険適用外となり、費用はケースによって異なります。
最新の金属アレルギー対応入れ歯技術
歯科医療の進歩により、金属アレルギーに対応した最新の入れ歯技術も登場しています。
近年では、口腔内スキャナーを使用したデジタル技術の進化により、より精密で快適な入れ歯の製作が可能になっています。従来の粘土による型取りではなく、口腔内スキャナーでデジタルデータを取得し、そのデータをもとに入れ歯を作製する方法が広まりつつあります。
この技術を用いることで、金属を一切使用しない入れ歯の製作が可能になり、金属アレルギーの方でも安心して使用できます。また、デジタルデータを保存しておくことで、万が一入れ歯が破損した場合でも、同じデータをもとに新しい入れ歯を作製することができます。
さらに、3Dプリンティング技術の発展により、より複雑な形状や、患者さん一人ひとりの口腔内に合わせたカスタマイズが容易になっています。これにより、従来の入れ歯よりも装着感や機能性が向上し、より快適に使用できるようになっています。
ただし、これらの最新技術を用いた入れ歯は保険適用外となることがほとんどで、費用は7万円から8万円程度からとなります。実際の費用は歯科医院によって異なるため、事前に確認することをお勧めします。
金属アレルギー対応入れ歯の選び方と注意点
金属アレルギー対応の入れ歯を選ぶ際には、いくつかのポイントと注意点があります。
まず、金属アレルギーの有無を確認することが重要です。すでに金属アレルギーと診断されている場合は、どの金属に反応するのかを把握しておくことが大切です。不明な場合は、パッチテストなどで確認することをお勧めします。
次に、入れ歯の種類と素材を選ぶ際には、以下のポイントを考慮しましょう。
- 装着感と快適性
- 審美性(見た目の自然さ)
- 耐久性と強度
- メンテナンスのしやすさ
- 費用
金属アレルギー対応の入れ歯は、従来の金属を使用した入れ歯と比べて、いくつかの注意点があります。
ノンクラスプデンチャーの注意点
ノンクラスプデンチャーは、使用する初期段階では、厚みによる違和感が生じることがあります。また、樹脂素材は金属に比べて強度が劣るため、噛む力が強い方や多数の歯を失っている方には不向きな場合があります。
さらに、樹脂素材は汚れが付着しやすいため、口腔衛生に注意が必要です。定期的なクリーニングと適切なケアが重要となります。
シリコン入れ歯の注意点
シリコン入れ歯も、汚れが付きやすいという特性があります。日々の適切なメンテナンスが必須です。
また、時間が経過するにつれて、口腔内の状態変化に応じたメンテナンスや調整が必要になります。破損した場合は修理が難しく、新たに作り直すケースもあります。
チタン製入れ歯の注意点
チタン製の入れ歯は、他の金属に比べてアレルギー反応が少ないですが、完全にアレルギーがないわけではありません。事前にパッチテストなどで確認することをお勧めします。
また、チタンは加工が難しい金属のため、製作コストが高くなる傾向があります。
金属アレルギー対応入れ歯のメンテナンス方法
金属アレルギー対応の入れ歯を長く快適に使用するためには、適切なメンテナンスが欠かせません。
まず、日々のケアとして、入れ歯専用のブラシを使用して、入れ歯の表面についた汚れをしっかりと落とすことが重要です。特に樹脂やシリコン素材は汚れが付着しやすいため、丁寧なクリーニングが必要です。
入れ歯洗浄剤を使用する場合は、素材に適したものを選ぶことが大切です。特にシリコン素材は、強い洗浄剤によって劣化する可能性があるため、メーカーや歯科医師の推奨する洗浄剤を使用しましょう。
また、入れ歯を使用していないときは、乾燥を防ぐために水中に保管することが一般的ですが、素材によっては異なる保管方法が推奨される場合もあります。歯科医師の指示に従って適切に保管しましょう。
定期的な歯科検診も重要です。口腔内の状態は常に変化しているため、入れ歯が合わなくなることがあります。半年に一度は歯科医院を受診し、入れ歯の適合状態をチェックしてもらいましょう。
さらに、入れ歯の素材によっては、経年劣化により変色や変形が生じることがあります。定期的なメンテナンスや、必要に応じた調整・修理を行うことで、長く快適に使用することができます。
まとめ:金属アレルギーでも安心して使える入れ歯選び
金属アレルギーがあっても、安心して使える入れ歯の選択肢は確実に増えています。ノンクラスプデンチャーやシリコン入れ歯、チタン製入れ歯など、金属アレルギーに配慮した素材を使った入れ歯が普及してきています。
入れ歯選びで最も重要なのは、自分の口腔内の状態や生活スタイル、予算に合った最適な選択をすることです。金属アレルギーの有無や程度、装着感、審美性、耐久性、メンテナンスのしやすさなど、さまざまな要素を総合的に考慮して選ぶことが大切です。
また、入れ歯は「作って終わり」ではありません。定期的なメンテナンスや適切なケアを行うことで、長く快適に使用することができます。特に金属アレルギー対応の入れ歯は、素材の特性を理解し、適切なケアを行うことが重要です。
入れ歯に関するお悩みやご不安は、専門の歯科医師に相談することをお勧めします。くろさき歯科では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な入れ歯をご提案しています。金属アレルギーでお悩みの方も、ぜひお気軽にご相談ください。
入れ歯は、口腔機能の回復だけでなく、食事や会話を楽しむなど、生活の質を向上させる重要な役割を果たします。金属アレルギーに配慮した最適な入れ歯選びで、安心して快適な生活を送りましょう。
詳しい情報や無料相談については、入れ歯・義歯治療のページをご覧ください。
院長・監修医師
黒崎 俊一(kurosaki syunichi)
歯学博士/日本補綴歯科学会「専門医」
経歴・資格
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1987年(昭和62年) 日本大学歯学部 卒業
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1992年(平成4年) 日本大学大学院 歯学部 補綴専攻 修了・歯学博士取得
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1996年(平成8年) くろさき歯科 開院(当院開業)
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日本補綴歯科学会認定「専門医」/日本歯科審美学会会員/日本矯正歯科学会会員
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日本大学歯学部 兼任講師として教育にも従事