入れ歯は保険と自費どちらを選ぶ?専門医が教える正しい選び方

歯を失ったとき、多くの患者さんが「入れ歯は保険で十分?」「自費の入れ歯は本当に必要?」と迷われます。入れ歯は毎日の食事や会話に直結する大切なものですから、慎重に選びたいものです。

私は補綴専門医として長年入れ歯治療に携わってきましたが、患者さんの生活の質を大きく左右するのが入れ歯の選択だと実感しています。

保険と自費、それぞれの入れ歯には明確な違いがあります。この記事では、入れ歯選びで迷っている方に向けて、専門医の立場から保険と自費の入れ歯の違いや選び方のポイントを解説します。

保険の入れ歯と自費の入れ歯の基本的な違い

まず押さえておきたいのが、保険と自費の入れ歯の基本的な違いです。

保険の入れ歯は健康保険が適用されるため、費用負担が少なく済みます。一方で、使用できる材料や製作方法に制限があり、基本的な機能を満たすための「最低限の医療」という位置づけです。

自費の入れ歯は保険適用外のため費用は高くなりますが、材料や製作方法の制限がなく、より快適で審美性や耐久性に優れた入れ歯を作ることができます。

では、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。以下に主な違いをまとめました。

費用の違い

保険の入れ歯は3割負担の場合、部分入れ歯で約4,000円~16,000円、総入れ歯で約8,000円~23,000円程度です。

一方、自費の入れ歯は種類によって大きく異なりますが、部分入れ歯で15万円~50万円、総入れ歯で30万円~80万円程度が相場となります。

費用面では大きな開きがありますが、耐久性を考えると長期的な視点で判断する必要があります。

素材と構造の違い

保険の入れ歯は床(歯ぐきに当たる部分)にアクリルレジン(プラスチック)を使用し、部分入れ歯の場合は金属のバネ(クラスプ)で固定します。

自費の入れ歯では、金属(チタンやコバルトクロムなど)、シリコン、ナイロン系素材など様々な材料を選択できます。特に金属床は熱伝導性に優れ、食べ物の温度をダイレクトに感じられるメリットがあります。

また、保険の入れ歯は製作にかけられる時間に限りがあり、簡易的な型取りしかできないため、噛み合わせまで考慮できていないことが多いのも事実です。

見た目(審美性)の違い

保険の部分入れ歯は金属のバネが目立つため、笑ったときに金属が見えることがあります。

自費の入れ歯では、金属のバネを使わないノンクラスプデンチャーなど、見た目に配慮した選択肢があります。歯ぐきと同じような色の樹脂でできているため、装着しても目立ちにくく、審美性に優れています。

保険の入れ歯のメリット・デメリット

保険の入れ歯を選ぶ際に知っておきたいメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

保険の入れ歯のメリット

保険の入れ歯の最大のメリットは、何といっても費用が安いことです。3割負担の場合、数千円から2万円程度で作製できるため、経済的な負担が少なく済みます。

また、治療期間も比較的短いのもメリットです。部分入れ歯であれば2~4週間、総入れ歯であれば4週間ほどで治療が完了します。

さらに、どの歯科医院でも修理や調整が可能なため、引っ越しや旅行先でトラブルが起きても対応してもらいやすいという利点もあります。

保険の入れ歯のデメリット

一方で、保険の入れ歯にはいくつかのデメリットもあります。

まず、耐久性に限界があります。プラスチック素材のため、変色や破損、変形しやすく、おおよそ2~5年程度で作り直しが必要になることが多いです。

また、床が厚くなりやすいため、装着感に違和感を覚えることがあります。特に上顎の総入れ歯の場合、厚みによって味覚や温度感覚が鈍くなったり、発音に影響が出たりすることも。

さらに、しっかりと噛めないというデメリットもあります。保険の入れ歯は、硬いものを噛もうとすると入れ歯がずれてしまってしっかり噛めないこともしばしばです。

金属のバネが目立つという審美的な問題もあります。笑ったときに金属が見えることで、入れ歯を使っていることが周囲に分かってしまうことに抵抗を感じる方も少なくありません。

自費の入れ歯のメリット・デメリット

次に、自費の入れ歯のメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

自費の入れ歯のメリット

自費の入れ歯の最大のメリットは、装着感の良さと快適性です。床を薄く作ることができるため、違和感が少なく、より自然な装着感が得られます。

また、見た目の自然さも大きなメリットです。金属のバネを使わないノンクラスプデンチャーなどは、周囲から入れ歯だと気づかれにくいため、人前での会話や笑顔に自信が持てます。

さらに、耐久性の高さも重要なポイントです。自費の入れ歯は高品質な材料を使用しているため、保険の入れ歯よりも長持ちします。特に金属床の入れ歯は、10年以上使用できることもあります。

食事の楽しさを取り戻せるのも大きなメリットです。自費の入れ歯は安定性が高く、硬いものもしっかり噛めるようになります。また、金属床の入れ歯は熱伝導性に優れているため、食べ物の温度をダイレクトに感じることができ、食事の満足度が高まります。

自費の入れ歯のデメリット

自費の入れ歯の最大のデメリットは、やはり費用の高さです。種類によっては数十万円から百万円近くかかることもあり、経済的な負担が大きくなります。

また、治療期間が長くなる傾向にあります。より精密な型取りや調整を行うため、保険の入れ歯よりも時間がかかることが多いです。

さらに、修理や調整が必要になった場合、保険の入れ歯のようにどの歯科医院でも対応できるわけではないという点も考慮する必要があります。

入れ歯選びで重視すべきポイント

入れ歯を選ぶ際には、以下のポイントを重視して検討することをおすすめします。

生活スタイルと優先順位

まず考えるべきは、ご自身の生活スタイルと何を優先するかです。

人前で話す機会が多い仕事をされている方や、社交的な活動が多い方は、見た目の自然さを重視した自費の入れ歯が向いているかもしれません。

また、食事を重視される方は、しっかり噛める安定性の高い入れ歯を選ぶことで、食生活の質が大きく向上します。

一方で、経済的な事情を優先する必要がある場合は、保険の入れ歯を選びつつ、定期的なメンテナンスで快適に使い続ける工夫も大切です。

長期的な視点での費用対効果

入れ歯の費用を考える際は、初期費用だけでなく長期的な視点も重要です。

保険の入れ歯は初期費用は安いですが、耐久性に限界があるため、数年ごとに作り直す必要があります。一方、自費の入れ歯は初期費用は高いものの、耐久性が高く長期間使用できるため、トータルコストでは大きな差がなくなることもあります。

また、入れ歯の不具合による通院回数や、食事の制限による栄養面への影響など、見えないコストも考慮する必要があります。

歯科医師の専門性と相談の重要性

入れ歯治療は歯科医師の技術や経験によって大きく結果が異なります。特に保険の入れ歯でも、専門的な知識と技術を持った歯科医師なら、限られた条件の中でも可能な限り快適な入れ歯を作製することができます。

入れ歯治療を受ける際は、補綴専門医や入れ歯治療に精通した歯科医師に相談することをおすすめします。専門医は患者さんの口腔内の状態や生活習慣を考慮し、最適な入れ歯の種類や材料を提案してくれるでしょう。

患者さんの状況別・おすすめの入れ歯

ここでは、患者さんの状況別におすすめの入れ歯をご紹介します。

初めて入れ歯を使う方へ

初めて入れ歯を使う方は、まず保険の入れ歯から始めるのも一つの選択肢です。入れ歯の装着感や使用感を体験してから、必要に応じて自費の入れ歯に移行することも可能です。

ただし、最初から快適に使いたい方や、見た目を重視される方は、ノンクラスプデンチャーなどの自費の入れ歯を検討されるとよいでしょう。

見た目を重視される方へ

人前で話す機会が多い仕事をされている方や、見た目を重視される方には、金属のバネが見えないノンクラスプデンチャーがおすすめです。

歯ぐきと同じような色の樹脂でできているため、装着しても目立ちにくく、自然な見た目を実現できます。また、金属アレルギーの方にも適しています。

しっかり噛みたい方へ

食事をしっかり楽しみたい方や、硬いものも噛みたい方には、金属床義歯やインプラントオーバーデンチャーなどがおすすめです。

金属床義歯は床の部分に金属を使用しているため、強度が高く、床を薄く作ることができます。そのため、違和感が少なく、安定性も高いのが特徴です。

インプラントオーバーデンチャーは、顎の骨に埋め込んだインプラントで入れ歯を支えるため、通常の入れ歯よりも安定性が格段に高くなります。特に下顎の総入れ歯で安定性を求める方におすすめです。

まとめ:あなたに合った入れ歯を選ぶために

入れ歯選びは、単に保険か自費かという二択ではなく、ご自身の生活スタイルや優先順位、口腔内の状態など、様々な要素を考慮して総合的に判断することが大切です。

保険の入れ歯は費用面で大きなメリットがありますが、装着感や審美性、耐久性などに制限があります。一方、自費の入れ歯は初期費用は高いものの、快適性や見た目の自然さ、耐久性に優れているため、長期的に見ると満足度が高い傾向にあります。

最も重要なのは、信頼できる歯科医師に相談し、ご自身の状況や希望に合った入れ歯を選ぶことです。私たち補綴専門医は、患者さん一人ひとりの生活背景や希望を丁寧にヒアリングし、最適な入れ歯をご提案いたします。

入れ歯は毎日使うものだからこそ、妥協せずに自分に合ったものを選びましょう。快適な入れ歯は、食事の楽しみを取り戻し、会話や笑顔に自信を与え、生活の質を大きく向上させてくれます。

入れ歯でお悩みの方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。詳しい相談や検査は、くろさき歯科で承っております。

院長・監修医師

黒崎 俊一(kurosaki syunichi)

歯学博士/日本補綴歯科学会「専門医」

経歴・資格

  • 1987年(昭和62年) 日本大学歯学部 卒業

  • 1992年(平成4年) 日本大学大学院 歯学部 補綴専攻 修了・歯学博士取得

  • 1996年(平成8年) くろさき歯科 開院(当院開業)

  • 日本補綴歯科学会認定「専門医」/日本歯科審美学会会員/日本矯正歯科学会会員

  • 日本大学歯学部 兼任講師として教育にも従事