入れ歯のメンテナンス方法と寿命を延ばすケア〜専門医の秘訣

入れ歯の寿命とメンテナンスの重要性

入れ歯は一度作ったら一生使えると思っていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。しかし実際には、入れ歯にも寿命があります。

一般的に入れ歯の寿命は4〜5年程度と言われていますが、適切なケアを行うことで長く快適に使用することができます。保険診療で作製したレジン製の入れ歯の場合、早ければ3年で交換が必要になる方もいれば、同じ入れ歯を10年以上使用している方もいらっしゃいます。

私は補綴(ほてつ)専門医として30年間入れ歯を作ってきた経験から、多くの患者さんが入れ歯の交換時期に悩まれているのを見てきました。適切なタイミングで入れ歯を交換することは、お口の健康だけでなく全身の健康にも大きく関わる重要な問題です。

入れ歯を長く使うためには、毎日の適切なケアが欠かせません。入れ歯に食べかすやプラーク(歯垢)が付着し、これらの汚れを放置すると、雑菌の繁殖や臭いの原因となります。さらに、カビの1種であるカンジダによる感染や口内炎のリスクも高まるのです。

入れ歯の寿命に影響する主な要因

入れ歯の寿命に影響する主な要因は以下の3つです。それぞれについて詳しく解説していきます。

1. お口の中の環境変化

入れ歯を長期間使用していると、お口の中の環境は徐々に変化していきます。特に影響が大きいのは以下のような変化です。

まず、入れ歯を支える歯の喪失があります。部分入れ歯の場合、金属のクラスプ(バネ)がかかっている支えの歯が歯周病などで抜け落ちると、現在の入れ歯が使えなくなることがあります。

また、残存歯の変化も影響します。他の歯が抜けたり、歯並びが変わったりすると、入れ歯との適合性が失われます。さらに、加齢とともに歯茎(歯肉)が痩せていくと、入れ歯との間に隙間ができ、「がたつく」「痛い」「外れやすい」などの問題が生じます。

2. 入れ歯素材の経年劣化

入れ歯は人工物ですので、使用とともに劣化していきます。主な劣化の形としては、変形・着色があります。食べ物や飲み物の熱によって素材が変形したり、コーヒーやお茶などで着色することがあります。

毎日の咀嚼により、人工歯が少しずつすり減っていく摩耗も起こります。これにより噛み合わせが変化し、咀嚼効率が低下します。また、小さな傷が付くことで汚れが溜まりやすくなり、見た目や衛生面に影響します。

特に保険診療で作製した入れ歯は、レジンという硬いプラスチック素材でできていますが、天然の歯よりも柔らかいため、硬いものを頻繁に噛むと傷つきやすい特徴があります。

3. 破損リスク

入れ歯を落としてしまい、粉々に割れてしまった場合は修理ができないことがあります。この場合は新しく入れ歯を作製する必要があります。

日常生活での取り扱いにも注意が必要です。特に洗浄時に滑って落としてしまうケースが多いので、洗面台に水を溜めるなどクッションになるものを用意しておくとよいでしょう。

入れ歯の正しい手入れ方法

入れ歯を長く快適に使うためには、正しい手入れが欠かせません。ここでは、日々のケア方法について詳しく解説します。

毎食後のお手入れ

入れ歯は朝昼夕の毎食後、間食をしたなら間食後も洗っていただくのが理想的です。食後に洗い忘れたら、次の食事のあとに倍ぐらいの時間と手間をかけて、ていねいに洗っていただく必要があります。

まず、洗面器などに水を張りましょう。これは落として破損したり排水口に流したりしないようにするためです。次に、入れ歯を外して流水下で清掃します。このとき、義歯用ブラシを使用するとより効果的です。

小さな入れ歯でも必ず外してから手の平にのせて洗面器の上でみがきましょう。ゴシゴシと力を入れすぎないようにしましょう。特に歯肉などに接する内面をみがきすぎると、すき間ができてしまいます。

汚れが残りやすい部分(クラスプなど)は丁寧にみがきましょう。部分入れ歯の場合、バネのまわりや裏側もていねいに洗います。細かい部分をきれいにするため、小さなブラシや綿棒などを使用するのもおすすめです。

就寝前のお手入れ

毎食後のお手入れに加えて、就寝前は義歯洗浄剤を使用してお手入れしましょう。まず、ブラシを用いて流水下で清掃します。次に、ぬるま湯に義歯洗浄剤を入れて、入れ歯を浸漬します。

洗浄剤を使用するとブラシだけでは落としきれない汚れやカンジダ菌などの真菌や細菌を除去できます。1日1回は入れ歯洗浄剤を使用して清掃しましょう。

浸漬時間は使用方法に従ってください。義歯の変形の原因になるため熱湯は厳禁です。義歯用ブラシで浮き上がった汚れと義歯洗浄剤を洗い流します。

就寝時に入れ歯を装着するかどうかについては歯科医師の指示に従って下さい。一般的には、朝から夜までずっと入れ歯を装着していた場合、入れ歯が乗る歯ぐきの土手の部分やバネがかかる歯を休めるため、寝るときにははずしておいたほうがよいでしょう。

入れ歯の保存方法と注意点

入れ歯を外して保管する際の正しい方法について解説します。適切な保存方法を知ることで、入れ歯の寿命を延ばすことができます。

水中保管と洗浄液中保管

入れ歯の保存方法は、主に2種類あります。水中保管と洗浄液中保管です。水中保管は、入れ歯を水道水に浸して保管する方法です。一方で洗浄液中保管は、洗浄剤を水に溶かし、その溶液に入れ歯を浸けておく方法です。

入れ歯は口腔内で使用するために設計されているので、適度な湿気が欠かせません。材質により、乾燥すると割れやすくなる性質があるため、常に湿潤状態を保つことが大切です。

保険義歯の場合、材質は主にレジン(医療用プラスチック)を使用しています。レジンは乾燥に弱く、乾燥すると亀裂や割れのリスクが高まります。使用後は、汚れを優しく洗い流し、水または洗浄剤を溶かした洗浄液に浸けて保管しましょう。

保存容器の選び方と保管場所

入れ歯を外して保管する際は、保存容器に入れて水や洗浄剤の入った液に浸しておきましょう。専用の保存容器は、透明ではない色つきの容器を選ぶのがおすすめです。誤って捨てたり、子供やペットに触られたりするリスクを低減できます。

入れ歯は温度変化や物理的な衝撃に弱く、これらを避けるための保管場所選びが重要です。急激な温度変化は入れ歯の変形や劣化を早める原因となります。直射日光の当たる場所や暖房器具の近くなど、温度変化の大きい場所は避けましょう。

また、入れ歯は落下や衝撃に弱いため、安定した場所に保管することが大切です。洗面台の端など、落ちやすい場所に置くのは避けましょう。子供やペットの手の届かない場所に保管することも重要です。

入れ歯の保存で避けるべきこと

入れ歯の保存において、絶対に避けるべきことがいくつかあります。まず、熱湯に入れることです。「洗浄剤がない」や「洗浄セットを忘れた」といった場合に、入れ歯を熱湯で消毒しようと考える方も少なくありません。しかし、この方法は大変危険です。

たしかに、熱湯での消毒は多くの菌を殺す効果があると科学的には分かっています。しかし、入れ歯には、高温に弱いプラスチックや樹脂が使われており、熱湯に入れると変形したり劣化したりして、使えなくなってしまう場合があります。

また、漂白剤に浸けるのも間違った方法の1つです。漂白剤は強力な化学物質であり、入れ歯の表面や素材にダメージを与える可能性があります。具体的には、入れ歯の色が変色したり、表面が荒れたりすることが考えられます。

さらに、入れ歯洗浄剤に長時間浸けることも避けるべきです。洗浄剤の使用方法に記載されている時間を守りましょう。長時間浸けすぎると、入れ歯の素材が劣化する可能性があります。

入れ歯交換が必要なサインと定期健診の重要性

入れ歯の交換時期を見極めるには、以下のようなサインに注意する必要があります。これらの症状が現れたら、歯科医院での相談をおすすめします。

痛みや不快感が増した場合

入れ歯を装着したときの痛みや不快感は、入れ歯と口腔内の適合性が失われている証拠です。特に食事中や会話中に痛みを感じる場合は、早めに歯科医院を受診しましょう。

最初は合っていた入れ歯でも、歯茎の形状変化により圧迫される部分が生じると、痛みの原因になります。我慢せずに調整を受けることが大切です。

入れ歯がガタつく・外れやすくなった場合

入れ歯が口の中でガタついたり、話したり食事中に外れやすくなったりした場合は、お口の形状と入れ歯の形状に不一致が生じている可能性が高いです。

このような状態で無理に使い続けると、歯茎に過度な負担がかかり、さらに歯茎が痩せる原因になってしまいます。悪循環を防ぐためにも早めの対応が必要です。

咀嚼効率の低下を感じる場合

以前は問題なく噛めていた食べ物が噛みづらくなった、食べこぼしが増えた、といった症状がある場合は、入れ歯の人工歯が摩耗している可能性があります。

咀嚼効率の低下は消化器系にも負担をかけるため、全身の健康にも影響します。食事の楽しみが減ってしまうことで、栄養バランスの偏りや食欲不振にもつながりかねません。

定期健診の重要性

入れ歯は日々のメンテナンスに加えて、定期的な歯科医院でのチェックが重要です。最低でも年に1回は歯科医院で入れ歯の状態を診てもらいましょう。

定期的な歯科医院でのメンテナンスを行うことで、入れ歯の寿命を延ばすことができます。また、入れ歯の適合具合が悪くなると、痛みや違和感が生じることがあります。定期的な歯科医院でのメンテナンスを行うことで、適合具合を調整し、快適に使用することができます。

さらに、入れ歯をしている部分にも、お口の健康が影響します。定期的な歯科医院でのメンテナンスを行うことで、お口の中のバランスを整え、健康を保つことができます。

入れ歯のまわりのお手入れ方法

入れ歯だけでなく、お口の中の残っている歯や粘膜のケアも非常に重要です。特に部分入れ歯を使用している方は、残存歯のケアが入れ歯の寿命にも大きく影響します。

残存歯のケア

金属の部分(クラスプ)をかける歯や入れ歯と接している歯の面は汚れがたまりやすく、むし歯や歯周病になる恐れがありますので、ていねいにみがきましょう。

クラスプがかかっている歯のみがき方を工夫しましょう。歯ブラシを横から入れて小さく動かしてみがくと効果的です。通常の歯磨きよりも丁寧に、時間をかけてケアすることが大切です。

部分入れ歯の場合、バネがかかっている歯は特に注意が必要です。バネの部分に汚れがたまりやすく、そのままにしておくとむし歯や歯周病の原因となります。小さめの歯ブラシや歯間ブラシを使って、バネの周りをていねいに清掃しましょう。

粘膜のケア

入れ歯の内面と接する歯肉などの粘膜も清掃するようにしましょう。入れ歯を外した後、柔らかい歯ブラシやガーゼで優しく粘膜をマッサージするように清掃します。

粘膜のケアは、血行を促進し、健康な状態を保つのに役立ちます。特に総入れ歯の方は、粘膜の健康状態が入れ歯の安定性に大きく影響するため、丁寧なケアが重要です。

また、入れ歯を長時間装着していると、粘膜に負担がかかります。就寝時には入れ歯を外して粘膜を休ませることも大切です。ただし、入れ歯をはずすと歯ぐきの土手の部分や歯、あごの関節に痛みが生じるという場合は、かかりつけの歯科医師にご相談ください。

まとめ:入れ歯を長持ちさせるための専門医の秘訣

入れ歯を長く快適に使用するためには、日々の適切なケアが欠かせません。ここまで解説してきた内容をまとめると、以下のポイントが重要です。

まず、毎食後の丁寧な洗浄を心がけましょう。入れ歯専用ブラシと専用洗浄剤を使用し、力を入れすぎないように優しく洗います。特に部分入れ歯の場合は、クラスプ(バネ)周りの清掃を丁寧に行うことが大切です。

就寝前には入れ歯洗浄剤を使用し、より徹底的な洗浄を行いましょう。また、保管時は乾燥を避け、水または洗浄液に浸けておくことが重要です。熱湯や漂白剤は入れ歯を傷める原因となりますので、絶対に使用しないでください。

残存歯や口腔粘膜のケアも忘れずに行いましょう。特に部分入れ歯の場合、クラスプがかかる歯は虫歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧なブラッシングが必要です。

そして、定期的な歯科医院でのチェックとメンテナンスを受けることが、入れ歯の寿命を延ばす最も効果的な方法です。痛みや違和感、ガタつきなどの症状が現れたら、我慢せずに早めに歯科医院を受診しましょう。

入れ歯は単なる「歯の代わり」ではなく、咀嚼や発音、表情など、生活の質に大きく関わる大切な装置です。適切なケアを行い、定期的なメンテナンスを受けることで、いつまでも快適な生活を送りましょう。

お口の健康でお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。専門医による適切なアドバイスと治療で、皆様の健やかな生活をサポートいたします。

くろさき歯科 入れ歯では、患者様一人ひとりに合わせたオーダーメイドの入れ歯治療と、長期的な健康維持のためのアドバイスを提供しています。お気軽にご相談ください。

院長・監修医師

黒崎 俊一(kurosaki syunichi)

歯学博士/日本補綴歯科学会「専門医」

経歴・資格

  • 1987年(昭和62年) 日本大学歯学部 卒業

  • 1992年(平成4年) 日本大学大学院 歯学部 補綴専攻 修了・歯学博士取得

  • 1996年(平成8年) くろさき歯科 開院(当院開業)

  • 日本補綴歯科学会認定「専門医」/日本歯科審美学会会員/日本矯正歯科学会会員

  • 日本大学歯学部 兼任講師として教育にも従事